机上旅行

本がつないでくれたおかしな出会いについてお話しましょう。

*世界一周

 スガサンを最初にお見かけしたのは“旅”がテーマの読書会、次は彼が勤める書店のイベントでした。その時彼は「会社を辞めて世界一周に行く」というようなことを言っていたのですが、奇特な人もいるものだ、と耳半分で聞いていました。そして3回目。自宅を引き払うために蔵書を知人に引き取ってもらうという会を開いていた彼の自宅にお邪魔しました。どういう経緯だったでしょうか、何かの拍子に「部屋を見せてほしい」と頼まれたのです。趣旨は説明をされたもののよく分からないまま、彼から幾度となく繰り出される“したり顔”にだまされて軽く受けてしまったのが運のつき。この後、怒涛のように浴びせられる質問が待っているとは露ほども知りませんでした。

 さて、よくよく話を聞いてみれば、ただ漠然と世界一周をするのではなく先々で出会った人の部屋を見せてもらい記事にする、それの前哨戦にとのことで、ほどなく彼は旅行の相棒カナザワクンと共に、坂を下ってつんどまりにある谷底の部屋へやってきました。ずずっと前へ出てきて遠慮のないスガサンに、タイミングを見計らって言葉を挟むカナザワクン。高校時代からの名コンビという二人と話すのはとても心地よく愉しいひとときでした。

 ところが、ウェブサイトを立ち上げるといっていたのに出発してから一月以上音沙汰なし。いったいどこで何をしているのだろう、彼らを知っている人は皆そう思っていたに違いありません。そんなある日のこと。連絡がきたのでいよいよ始動かと思ったら、追加の質問がやってきたのです。しかもたっぷりと。そして遠く中国に滞在している人と夜中のチャットで自分のことについて聞かれ悩む事になるなんて全く想像していなかった!

 日本でも割と根っきり葉っきり話してしまい、失敗したなと思ったのですが、その時には後の祭。彼らが行く先にお住まいの皆さんにおかれましては、とぼけたしたり顔と一見クールな風体の二人組に声をかけられたら逃げたほうがいいです。

  というわけで、退屈ロケットというコンビ名で世界一周の旅に出た彼らのウェブサイトと私のおかしな部屋の記事はこちらです。 

 

*机上旅行

 ところで、私はふらふらと歩くのが好きなのですが、世界にふらりと行ってしまった彼らがうらやましくてたまらない。彼らの旅先からの便りを楽しみに読むのはいいのだけど、ただ待つだけなのはつまらない。そこで私も世界一周をすることにしました。ただしそれは机の上、開いた本の上での話です。世界各地で語り継がれてきた昔話に様々な国の物語。幸いなことにそれらを私達は本という形でそれらを手にすることができます。彼らを応援する意味も込めて、旅程に合わせて各国のお話を読んで紹介する予定です。

 お二人の旅がよいものとなりますように。

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きょう、わしたちは生きている、しかしあしたになったら、きょうという日は物語に変わる。世界ぜんたいが、人間の生活のすべてが、ひとつの長い物語なのさ

―『お話の名手ナフタリと愛馬スウスの物語』(アイザック・B・シンガー)

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お話を運んだ馬 (岩波少年文庫 (043))

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