愉快!痛快!同じ顔をした兄弟の大活躍の物語

 前回からずいぶんと間をあけてしまったのですが、机上旅行中国編をお届けします。

 皆さんは何人兄弟ですか?双子の人は?私も五つ子くらいまではテレビ番組で見たことがあるのですが、今日紹介する物語はなんと、顔も形も寸分違わない九人兄弟が活躍します。

*『王さまと九人の兄弟』 

 中国はイ族に伝わる昔話を再話した絵本です。イ族は中国西南部、雲南省や四川省周辺に暮らす少数民族です。

 イ族の村に年寄りの夫婦がいて子どもが欲しいと願っています。おばあさんがあまりのさみしさにこぼれた涙が行けに落ちると、白い髭の老人が現われ丸薬を渡し、こう言います。「一粒飲むと、子どもがひとり生まれる。九つあるから、みんなで、九人の子持ちになるわけじゃ」そこでおばあさんは薬を一粒のんで一年待ちましたが赤んぼうは生まれません。待ちきれないおばあさんはもらった薬をいっぺんに飲んでしまうのです。
 この後九人のあかんぼうがいっぺんに生まれるわけですが、このあかんぼうはそれぞれ特技を持っています。名は体を現すということで、こんな名前がつけられました。「力もち」「食いしんぼう」「腹いっぱい」「ぶってくれ」「長すね」「寒がりや」「暑がりや」「切ってくれ」「水くぐり」です。どのような特技なのか想像できるでしょうか。
 物語は続きます。王さまの宮殿の柱が倒れてしまったという話が流れ流れて伝わって、九人きょうだいの一人「力もち」が柱を直しました。ところが王さまは信じません。そんな力もちなら大飯を食べられるだろうし、食べられなかったら牢屋に入れろと言うのです。そこで次は「食いしんぼう」が宮殿へ出向き……。困難が訪れるたびにさっと入れ替わり 事なきを得るのですが、これがまた痛快です。
 小さい人たちにこの話を読むとひそひそと「次はぶってくれだぜ。」……「ほらやっぱりー!」 と非常に盛り上がります。話を知っていても二回目三回目でもなんのその、何回でも楽しんで聞いてくれるすごい話なのです。

 さて、この話の再話者である君島久子さんが『王さまと九人のきょうだいの世界』という本で、中国各地にある類話との比較や歴史的背景などについて書いているのですが、「鍵開け」や「つぶれない」「とんがり口」「洟たれ」なんていう名前もあるようです。なんと「洟たれ」は自分の鼻汁をつかみとってふり飛ばし敵の目を糊付けする特技だそう!
  『西遊記』との比較も面白く、この九人兄弟のあらゆる能力を備えているのが孫悟空だというくだりには納得させられます。

  

 中国は広大だからとのんびり構えているうちに退屈ロケットのお二人はいつの間にやら中国を脱出しトルコのあたりにいるようです。トルコとはまたよろし、おもしろおかしい昔話が山ほどある国ではないですか!

王さまと九人のきょうだい―中国の民話 (大型絵本 (7))

王さまと九人のきょうだい―中国の民話 (大型絵本 (7))

「王さまと九人の兄弟」の世界

「王さまと九人の兄弟」の世界

*おまけ
 『西遊記』の名場面を抜き出したこの本はイラストがまるで京劇のような色彩で中国らしさが伝わる美しい絵本です。 

西遊記〈1〉石からうまれた孫悟空 (決定版!大型絵本)

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